86年の歴史があり日本有数のトップレベル美術展である新制作展で、五十嵐健治先輩(S42入)が、15年連続入選の快挙を成し遂げました。
これまでの作品は一貫して“ハチ”に関するもので、この作品のタイトルも“unbalanced nest”です。
ハチは世界の野菜・果実の1/3の受粉を行っており、人間社会の食生活には、非常に重要な存在です。しかし、地球温暖化による異常気象と、近代化による自然破壊で減少の一途をたどり、もはやハチの減少は、世界的問題にもなっています。ハチは、珍しく社会性昆虫に属し、女王バチを中心に、3万匹ほどのコロニーと呼ばれる集団で生活しており、異常気象、自然破壊に敏感に反応していくとのことです。
この絵に対面した時には、その危機迫る人間とハチとの共存の危うさを感じさせられました。まず、絵画全体からは、私たちの昔の長閑な田園の原風景が吹き飛ぶメッセージを感じます。そして、前に突き出たカカシと巨大なハチが、鮮烈な残像イメージとして感動を残します。
後ろからは、近代的なビル群が押し寄せてきて、赤いラインで仕切られた自然との境界が迫ってきています。ハチの針は卵を産むための産卵管またはそれが変化したものですが、危機を感じて赤く灯っています。田園風景の象徴であるカカシの顔は、へのへのもへじではなく、スキのない神経質な眼であり、片手に無縁なはずの時計まで携えており、本来の一本足が二本足にもなり、ハチと同様に赤いラインが灯っています。
この生態系が狂ってきた窮屈な空間に、“unbalanced nest”は、構築されています。画面左側の殺伐とした広々とした乾いた空間は、異常気象によるものであり、上のほうは朽ちたコロニーの残渣でしょうか。
尽きないほどに、種々なイメージが湧き出てきますが、これは愉悦のひとときであり、この絵がもたらしてくれるものでしょう。
先輩から、下記の一筆がありました。
【この絵は、子どもの頃見た田舎の風景に都市化された風景をかさね、少なくなった自然、その中に生きる蜂の様子、蜂の巣を描いたものです。どちらかと言うと、自由に描きました。皆さま、どう感じられるか、ご鑑賞頂ければ幸いです。 五十嵐健治】